トンガの今日は

南太平洋トンガ王国 日本語教師 青年海外協力隊

トンガでひらひらTシャツアート展

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高知県黒潮町から「ひらひらTシャツアート展」がやってきました。

2019年ラグビーワールドカップが初の日本開催ということで盛り上がっていますが、高知県はトンガのナショナルチームのキャンプ地になっています。

そして現在高知県とトンガの交流が進んでいて、トンガの小学校にランドセルが寄付されたり、ババウ島にゴミ収集車が寄贈されたり、また2017年にはトンガの高校生が高知県で開催された世界津波の日高校生サミットに参加しました。

 

そんな高知県黒潮町にあるのが「すなはま美術館」。

コンセプトが独特で「美術館のない美術館」です。

彼らによると「私たちの美術館は美しい砂浜」で、天井は空、壁は空気、作品は砂の上のココナッツや波の模様、そして町の人々の生活や伝統的な技術の数々それ自体も作品であるとのこと。

つまり美しいものを、美術館ではなく普段の生活から見出そう、というのがこの「すなはま美術館」の考え方です。

 

毎年5月に「ひらひらTシャツアート展」をそれこそビーチで開催しており、JICA四国もそれに参加しています。

このアート展は国内だけでなく海外でも開催されていて、今年はトンガが選ばれたという運びです。

 

そして色々巡って私の勤務校がひらひら展の会場に選ばれました。

日本からやってきたアートTシャツ(黒潮町の小学生の作品やJICA四国の世界の写真Tシャツなど)はなんと150枚。

美術館のスタッフさんも来られたのですが、超過料金なしで手荷物にねじ込んできたというのでびっくりです。

 

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話を頂き、アート展は大好きですがトンガの人はどう思うのかしらと考えたとき、外から来たものを見て楽しむだけでなく、やはりここにいる人も参加できるほうがいいなと思いました。

そこで同時に「紙Tシャツアートコンテスト」の開催も提案。

美術館のコンセプトに合わせて、「トンガの好きなところ」「おれの生活いけてると思う瞬間」「テーマなしアートを楽しむ」の3つのテーマを設定し、当日までの数か月間、トンガで作品を募集しました。

 

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ちなみに私が「おれの生活いけてる」と思う瞬間は、「洗濯始めるたびに大家さんが雑談しに来てくれるとき」です。

 

準備段階で手始めに学生とTシャツアートをやってみました。そのとき印象的だったのですが、「アート」「美術館」という言葉を彼女たちに投げるとぽかーんとしてるのです。

というのもトンガにはいわゆる美術館がなく、学生たちによると「美術館ってタパとかカゴとか飾るとこですよね?」つまり伝統的な手工芸品を展示する場所が美術館だという認識だったようです。

さらにトンガでは美術の授業が一般的でなく、生徒に絵画などをやらせている学校は一部とのこと。

そもそも「アート」とか「美術館」について持っているイメージが、私たちと彼女たちで違うことが今回の発見でした。

 

紙Tシャツアート、トンガ人のってくれるか?と怪しかったのですが、協力隊のつてやFacebookや日々の雑談やそのへんの子どもなど、いろいろなところに声をかけてみると意外と絵が好きな人やおどろくほど上手な人が結構いて、結果90枚の紙Tシャツが集まりました。

そしてトンガ人達のトンガ愛も「やっぱりな」という感じで、たくさんの学生がトンガ国旗やトンガの伝統的な模様(「クペシ」といって、モアナにも出てきてました)、そして神様ありがとうメッセージをTシャツに描きこんでいました。

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その他当日はブースを設けて黒潮町にメッセージを書けるようにしたり、本物のTシャツに布クレヨンで絵を描けるようにしたり、そのへんでのんびりしている学生とロープをはったりなど、ゆるく楽しく2日間校庭がギャラリーとなりました。

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美術館スタッフさんによるとTシャツというのは世界中で日常着であり、日常生活の象徴。また彼らの展示方法はほぼ「洗濯物」なのですが、長い長いロープにずらっと家族の洗濯物を並べる、これがトンガ人の洗濯の干し方とめちゃくちゃ似ています。

東日本大震災後に東北でTシャツ展を開催したときには、現地の方の「洗濯物が外に干してあるというのは平和で幸せな風景だ」という言葉もあったそうです。

 

すなはま美術館の考え方を調べる中で、日常の中のきれいなものという点で、トンガ人の色彩豊かなプレタハ(レディースオフィスファッション)やきれいに編まれたキエキエやタオバラ(フォーマル木の皮編み編みベルト)、彼らがずっと続けてきたであろう日曜のミサやルー(日曜に食べる蒸し料理)の習慣も、トンガ美術館の作品のようにも思えます。

また黒潮町は小さい町で伝統的な生活があり、また沖にはニタリクジラが生息しているそうです。

クジラの子育て場所になっている同じく小さいトンガと、黒潮町またはすなはま美術館の言っていることに、いろいろと共通点があってなんとなくご縁を感じました。

 

実際に芝生の上にTシャツがずらっと並び、風邪にひらひらしている風景はとてもすがすがしく、日常生活の延長線上にある展覧会といった趣ですてきでした。

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私のほうはお手伝いしつつ大いに日本語の授業にも利用(「プロジェクトベースドラニング」これは別稿で)。

日本語教育もTシャツもお絵かきも図工も芝生も外にいることも好きなので、ええ仕事やったな~という9月でした。

 

入賞作品は後日教室前で展示し、朝礼でプレゼント(豆絞り、Tシャツ、クジラフィギュアなど)を贈呈です。

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