トンガの今日は

南太平洋トンガ王国 日本語教師 青年海外協力隊

思い出と日本語と体験学習 ひらひらTシャツアート展 in Tonga(2年目)

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さて今年も高知県黒潮町から、ひらひらTシャツアート展がトンガにやってきました。

私はトンガ教員養成校で、日本語教師を目指すトンガ人学生を指導しているのですが、これはうちの授業に大変おいしい!

ということで、このひらひら展のお手伝いを2年連続させていただいています。

 

というのも日本語教師を目指すべく学ぶ私の学生、

日本語の不自由さは恐れずにがんがん日本人に絡んでいくポジティブさ、

とりあえずお客さんはもてなしたいトンガ人、

思い入れが無いことは一瞬で忘れがちな人達、

そんな彼女たちには「体験学習」が効果的なのではと思うに至ったからです。

 

 

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「体験学習」とは何か、私は専門ではないので詳細は省きますが、要は「やってみて学ぶ」という学習方法で科目問わず教員養成にも取り入れられることがある考え方です。

  

今回の授業で、私の最終的な狙いは、教員訓練生に、

1.Project Based Learningの考え方を学んでもらう

2.ARCS Modelの考え方を学んでもらう

3.それらを通常授業で活かす方法を具体的にモノにしてほしい

というところでした。

 

Project Based Learningというのは学習方法のひとつの考え方で、課題に取り組みながらその過程で学習者が自ら学び教師はその仕掛けづくりをする、というものです。

中でも私が教員訓練生に学んでもらいたかったのは、

”Student-centered(学生中心で教師はヘルプ)" 

“Beyond class-room(教室の外と学生をつなげる"  

"Use all of language skills(言語の4技能全部使う)” 

”Learn through process(過程で学ぶ)" の4つのポイントでした。

 

ARCS Modelというのはどうやったら学生を動機づけられるかという理論で、

Attention(学生に「あ、なんかおもろそう」と思わせる)

Relevance(学生に「あ、これ俺のためになるな」と思わせる)

Confidence(学生に「あ、ちょっとがんばれば出来そう」と思わせる)

Satisfaction(学生に「おもろかったな」と思わせる)

のサイクルで動機づけが継続するというものです。

 

私は将来日本語教師になるトンガ人学生にこれらを学んでほしかったわけですが、やはりただ講義で説明するだけでは定着しないだろう、そこで「体験学習」としてひらひら展を利用、ということです。

 

スケジュールとしては、

1.ひらひら展のために準備

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日本語でひらひら展や主催美術館について読む→それに基づきトンガ人ゲストのための説明を作る、日本人美術館スタッフのために学校案内やトンガのおすすめ観光地、トンガ滞在中の注意などを日本語で準備、紙Tシャツをデザインし自分のデザインの説明を日本語で準備、など。

 

2.ひらひら展当日

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準備したおもてなし全部する、日本人スタッフやゲストとたくさん話す、美術館スタッフさんらにお礼メッセージを日本語で書く

 

3、ひらひら展後

①Project Based LearningとARCSの紹介

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準備から当日までに自分がした作業を書き出し、それぞれの作業はどんな日本語技能の練習になっていたか考える。当日までの準備(過程)が日本語のトレーニングになっていたことを理解する(→PBL)。

それぞれの過程で自分がどんな気持ちだったか書き出す、どうして楽しかったのか、どうして緊張していたのか、どうしてそれをやりたかったのか、またはやりたくなかったのか原因を考える。学生が書きだした気持ちからAttention、Relevance、Confidence、Satisfactionを抽出する(→ARCS Model)

 

②通常授業への応用(ここがいちばんの狙い)

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Project Based LearningやARCS Modelの考え方を、どうやって授業に活かすか考える。私としては「だからトップダウン導入は効果的なんだ(Attention:謎を提示されると知りたくなる)」とか「だからつかう練習(応用練習)が必要なんだ(Relevance:自分と関係があることはやりたい)」など、教授法の授業で指導済みの項目に帰結してもらえたら最高、という感じでしたが。まあでもひとつでもいいので、今回の学びを将来教室で参考にしてくれたらなと願っているところです。(例:“Beyond class room"→日本の動画を見る、日本人ゲストを呼ぶ、”Attention”→レアリアを使う、歌う、踊る などなどのアイディアが学生から出ました)

 

④そして模擬教壇

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通常の評価に加えて、PBLやARCSのアイディアが意識されているかも評価基準に含める(例:日本人に対するトンガ語授業を、母語話者教師体験ということで訓練生にやらせたのですが、その授業にでっかいトンガ人ゲストを呼んできて、参加していた小さいJICAボランティアたちと会話練習をさせていました。Beyond class roomということです。)

 

となりました。

 

PBLもARCSも体験学習も、大学生が専門で学ぶほど詳しくは指導できず、各理論のごく一部、トンガの人に響きそうな数か所をピックアップしているだけです。

ですが実際にこのやり方はなかなか良かったなと我ながら思っていて、

昨年この学習をした学生が、今年の別のテーマのレポート(「自分のロールプレイの授業の振り返りレポート」)で「Beyond class roomの視点が無かったのでだれかゲストを呼べば良かった」と自ら分析していました。

レポートの提示前にARCSやPBLに私が言及したわけではなかったので、ある程度は定着したのではと嬉しくなった一件でした。

 

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いずれにせよ、

・TIOE(私の勤務校)では全コース「内容(日本語そのもの)」と「教授法(日本語の教え方)」で構成することが規定されていること

・トンガの人達は超短期記憶で軽い会話(つまり普通のおもんない講義)はすぐ忘れてしまうこと

・そのわりに自分が出会った日本人の話など、面白かったことは何十年前のことでも覚えていること(よくトンガの人が今までの人生で会った日本人を羅列してくれます)

・とにかくやってみる人達、土壇場を楽しむ人達であること

・つまりできるだけすべてをエピソード記憶で学ばせたい

を考慮すると、この国の教員養成校で「体験学習」はなかなか合っていると思いました。

 

ひらひら展、今年もいい機会をいただきました。

こういう、一見日本語教育と関係ないことを巻き込んだり、自由で突然な教え方ができるのは、協力隊の強みかもしれません。