トンガ 日本語スピーチコンテスト2019
年に一度の日本語スピーチコンテストが開催されました。
逆にすぐ忘れてしまいそうなほどあっという間の1日だったので、私の個人的な今年度スピーチコンテストの見どころを記録しておきます。
長くなりそうです。コンテンツはこちら。クリックしてもジャンプはしません笑
1.4年生よくぞ楽しんでくれた(4年生の朗読について)
2.泣けばよかったか(私の学生の成績について)
3.この国で10周年(トンガのスピーチコンテストについて)
4.まだまだ伸びしろいっぱい(トンガの日本語スピーチ指導について)
5.いっしょに働こうの話(協力隊とトンガ人の先生たちについて)
【1.4年生よくぞ楽しんでくれた】
スピーチは、4年生の部、5年生の部、6年生の部、そしてOpen categoryという7年生と一般の部、の4つにわかれています。4~6年生は共通のテーマでスピーチ、Openは自由テーマというのが例年でした。
しかし今年は趣向を変え、4年生はスピーチではなく朗読「雨」をすることに。
「わかる日本語でスピーチしてほしい」「しかし4年生までの日本語でまとまった文章を作るのはむずかしい」という背景がありました。
この「雨」は、岸田衿子さんという方の作品で、
「はっぱにあたって ぴとん」「まどにあたって ぱちん」
「こねこのしっぽに しゅるん」「くるまのやねに とてん」
のように、形の揃った短文の積み重ねの中で、たくさん雨のオノマトペが出てくる詩です。
これであれば4年生でも日本語を発話することを楽しめるのではないかと考えました。
そして当日、最初の数人は緊張で硬くなっていましたが、一人堂々たる朗読をする女の子が出現。彼女は身振り手振りに加え「ぱちん」とか「しゅるん」とか「しとん」を声に緩急、大小をつけて見事に表現してくれました。
彼女が空気を変え、そのあとの学生も次々に笑顔で自分が思う雨の音を表現し、会場の学生も楽しんでいました。
その言語に関する知識量とは関係なく、その言語の音を楽しむ(言語自体を楽しむこととも言えるかもしれません)、外国語を口にすることを楽しむ、という点で今回の朗読はすごくよかったのではと思います。
思い思いに日本語を楽しんでくれた小さい4年生たちに拍手喝采です。
そして素敵な詩を見つけられたこともラッキーで、作者の岸田衿子さんとインターネットにも感謝です。
【2.泣けばよかったか】
今年のTIOEからは1年生の学生1名(出場必須)と、やる気ある2年生1名(出場任意)がスピーチに出場しました。
英語で作文をして翻訳すると英語と日本語のレベルのギャップに苦しむことになるので(1年目の私の反省)、今年はできるだけ英語はアウトラインと脳内にとどめ、一文一文は日本語で産出させました。
2人とも苦しみながら(私も苦しい)完成までじりじり10時間ほど、1対1で私と過ごしたかと思います。
特に2年生は日本語学習歴が短く、日本語を完成させた日には疲れてしまい、また言いたいことと日本語力のギャップにやる気をなくし、教師(私)から離れたそうにも見えたほどでした。
しかし結果は2年生が3位入賞、1年生は同時に行われる国際交流基金の訪日研修の選抜(スピーチ、面接、試験の総合得点)に選ばれ、2週間日本に行けることに。大金星です。
ちょっと心離れた感じがして心配していた2年生は、舞台にあがるとメモを見つつも堂々ほがらかに話しており驚かされ、また昨年は入賞できなかったことと学習歴の短さから、正直入賞は予想していなかったのでさらに驚かされました。
陽気な1年生は着々とスピーチを準備したものの暗記まで間に合わず。内容に自信はありましたがうろ覚え&時間オーバーで入賞はなりませんでした。
彼女については逆に入賞できなかったのが意外で、これはいかんと思ったのですが最後の最後、おそらく面接と試験のポイントで追い上げ結果日本行きを勝ち取ってくれました。
不覚にも泣きそうになり、表彰される学生を直接見れませんでした。
はっきり学生の姿を見ないよううっすら焦点をぼやかして表彰式を眺めたり、喋ったら泣きそうだったのでもくもくとTシャツを片付けてみたりしました。
人の手柄ですがめちゃくちゃ嬉しく、学生が達成したことを自分が喜んでることに気付き「おお、わたし教師っぽい」「教師向いてるかも」とか我ながら今更思いました。
学校に戻り理事長先生(陽気で大きいトンガレディ)に報告すると「よくやった!ありがとう!」とがっつり抱きしめてくれ、その時はもう涙目が先生にばれていたと思います。
学生には大会直後に「誇りに思うよ」とか「嬉しいよ」とか言葉で伝えハグもしましたが、しかしもし会場で泣いていれば、私がどれだけ嬉しいか学生により直球で伝わったかも、自分達が学習した過程とついてきた結果により達成感を味わってもらえたかも、と思います。
別にキャラじゃないということで我慢せず、「泣いてもうてる教師」を見せてもよかったかもな、とちょっと思いました。
【3.この国で10周年】
スピーチコンテストは今年がちょうど10周年の年でした。
審査員は半分が日本人、半分がトンガ人ですが、トンガ人審査員には日本の大学を修了した日本語ペラペラの先生方が座られます。
その先生の講評では4年生の朗読について、この新しい試みを褒めてもらいました。また10年前は昔話の朗読をやっていたこともあるそうで、10年前のボランティアも色々考えたんだろうなとしみじみ思いました。
学習者200人足らずのこの国で、10年コンテストが続き、またこの小さいトンガにも訪日研修のチャンスをもらえていることをとても貴重に思います。
あとプログラムの表紙をデザインさせてもらいました。
トンガでは晴れ舞台の日に「カホア」という花と葉っぱの南国っぽい首飾りをかけます。
昨年、スピーチをする学生がカホアをそれぞれ持参し、「あ~家族が用意してくれたのね」と想像しつつ、同級生がそれを彼らにつけてあげている様子がなんとも微笑ましかったので、表紙にはカホアを描きました。
ちなみに最初はオレンジで描いていたのですが、赤のカホアがベストということを大使館のトンガ人スタッフさんに教えてもらい色を変更しました。
【4.まだまだ伸びしろいっぱい】
私が個人的に考えているトンガの日本語スピーチの課題に「ロボット日本語の撲滅」があります。
昨年に引き続き今年もこの「ロボット日本語」が見られたのですが、これは「意味を理解せずに発音している日本語」です。
つまり日本語の文章を完璧に覚えて発音してはいるのですが、学習者がその日本語文の意味を理解しておらず音だけ追っているために、文の切れ目やスピードやアクセントが不自然になり、Siriより人間味のないスピーチになってしまっている例です。
この背景には、
「英語で原稿を全部書かせる→日本語に翻訳する」やり方で文章を作っている、
教師は指示だけで作業に介入していない、
高学年にもなると抽象的なことや意見だって話したい、
英語(トンガの学生にとっては第一または二言語)と日本語のレベルのギャップで翻訳不可能または翻訳が大変すぎる、
見かねて日本語教師がほぼ翻訳しちゃう、
語学教師でない日本人にまるごと翻訳任せちゃう、
Google先生に全部聞いちゃう、
結果、学生は意味わからんけど音だけ覚えちゃう(覚えられるのもすごい)、
ていうか先生たちもめちゃ忙しいし、
スピーチコンテストのタイミングもスポーツ大会直後とかで練習時間も足りないし、
といった様々な原因があります。
昨年はロボットが多すぎて悲しく思い、今年は昨年より日本語を自分のものにしているスピーチが多かったように思いましたが、やはり数人の学生はロボット日本語になっていました。
学校行事とは別枠のコンテストとはいえ、やはり言語学習の過程としてのイベントであってほしい。
学生には自分が作ったと思えるスピーチを、自分が作ったと思える日本語で話してほしいと思います。
ロボット撲滅キャンペーンとして、これは私がつとめる教員養成校で、「スピーチの教え方」として教育訓練生に教えなければいけないことでもあり、日本語教師会でも指導法を提案していくのが日本語教育隊員の役目かなと思います。
しかしまだはっきりと、トンガに合う「スピーチの教え方」を私自身が見つけきれておらず、活動期間残り8か月ですが、このロボット日本語には何かしら一矢報いて帰国したいと決意新たにしました。
ひとまず授業では「いいスピーチには教師の助けが不可欠よね」というところまで話しておきました。
【5.いっしょに働こうの話】
スピーチコンテストの2019年度大会Tシャツにはトンガ語で「‘oku mau ngaue fakataha」とプリントされています。Let’s work togetherという意味です。
おまけですが、会場の音響をしてくれていたトンガ人のおっちゃんにもプレゼントしたところ、渡すや否や、「ずっと思ってたけどこの言葉がめっちゃいい」「自分のことしか見えてない人もいっぱいいるよね」「そういう人にいい宣伝になるよこのTシャツ」と熱く語ってくれ、印象的でした。
トンガ人日本語教師とボランティアがどれだけ仕事を共有していけるかも、今後のトンガ日本語教育がより高見を目指していきたい項目です。
余談:トラックでわさーと会場に輸送されてきた男子校の学生たち。この学校は日本語の授業の歴史も長く学習者も比較的多いです。