トンガの日曜日は
トンガの日曜日は街が停止します。
というのも日曜日は安息日であるため、労働や遊びはしてはいけない日になっているわけです。
商店はこぞって閉店、洗濯をするのも、海に飛び込むのも日曜日はなしです。飛行機ですら日曜は飛びません。休むんです。
うちルールはそれぞれらしいですが、人によってはテレビもつけないというところも。
また家の前の掃き掃除をしていて、近所のトンガ人に軽く怒られたというボランティアもいたそうです。
では日曜はだらだらするだけの日かというと、そういうわけでもありません。
日曜には日曜にやるべき重要事項が、この国にはいろいろあります。
日曜にトンガの大勢がやること、それはひとまず教会に行くことです。
私も大家さんについて、ときどき教会に行きます。
ひとくちにキリスト教、教会と言ってもいろいろで、うちの大家さんはフリーウェズリアンという宗派で、通っているのは高い木製の壁にパステルカラーのステンドグラスがすてきな教会です。
朝10時に教会に向かい、だいたい1時間ぐらい、トンガ人がスピーチしたりみんなで歌ったりするのを眺めながらそこで過ごします(モルモン教の教会に行ったときは3時間で、なかなかタフでした)。全編トンガ語なので意味はわかりません。
トンガ語にはMalangaという動詞があり、人前でスピーチすることを指すようです。
教会では毎週数人がMalangaをしているようで、もう慣れましたが感極まって泣きながら話す人が多いのが驚きでした。
気持ちを表すために涙ぐむのはいたって普通のことのようで、聞いている人たちはけろっとしています。
また教会では何度も合唱の場面があるのですが、「トンガ人の歌声」には感動するものがあって、とても力強く印象的です。これについては別稿に。
先週はイースターということで教会もちょい長め、キリストの型を押したクラッカーとブドウジュースを参詣者全員が頂くという儀式もありました。
教会内にはおそらく100人ぐらいは人がいたと思います。
かっちり決まっているわけではないと思いますが、なんとなーく最も年配の人達15人ぐらいが、まず前に出ていってひざまずき、教会の人からクラッカーとジュースを受け取り食べます。
うちの大家さんもいちばんに出ていきました(そして私も大家さんに引っ張っていかれ、27歳にして最初の長老グループに入ってしまいました)。
それから何かのタイミングで、長老グループは席にもどり、なんとなーくもう少し若い世代の人が前に出て同じことをする、これの繰り返しで一番最後は子供たち。
その間もずっと聖書を読む声と歌声が続いているという、不思議な時間でした。
日曜日は教会のあと、大家さんちにお邪魔してお昼を一緒に食べることが多いです。
日曜ランチの定番は、タロイモの葉っぱで肉や野菜とココナッツミルクをつつみ、地面に掘った穴で蒸した「ウム」という料理です。
タロイモの葉はホウレンソウのような味、中の肉はココナッツと火力でほろほろ、とても美味しいです。この塩気はビールに合うぞとこっそり思っています。
また「オタイカ」というのもトンガの伝統的な料理です。
これは生マグロと生キュウリ、生玉ねぎをココナッツミルクにぶっこんで塩で味付けしたもので、見た目はいわば生魚のフルーツポンチです。
あり得ない組み合わせにぜったいまずいと覚悟して食べたのですが、これが驚きのおいしさで料理の既成概念をぶっこわされました。
生魚を買うのは難易度が高いので、私はこのオタイカをかなり楽しみにしています。
日曜日は各家族のお料理係がこれらを用意し、近所の人や親せきで一緒に食べるというのが、トンガのルーティーンみたいです。
それが終わったらあとはMalolo(休息)で、日没までずっと静かな午後です。
大家さんちの少年が、上半身裸でテラスの床に転がっているのをよく見かけます。
あとはおばちゃんが家先に座って風を感じたまま、1時間ぐらいそのままだったり。
周辺も静かなもので、いつものトンガ人達の爆笑や、大音量のビートは聞こえません。
以前JICAスタッフさんが「トンガが閉まっている」と表現していましたが、まさにその通りといった感じです。
風がゆるゆる吹き、コッケコッコ―、ピヨピヨ、ブヒブヒ、それから遠くからどこかの教会の合唱が聞こえてくる、近くに人間がいなくなったみたいな午後です。
私の場合こういうときに一層、日本から(いや世界から)遠いなーと実感します。
トンガにいると、もはや北朝鮮の動向も、トランプ政権のその後も、東京オリンピックへの高まりも、褒められたことでは無いですが、全部すごく自分に関係ない話のように思えて、最近はYahooニュースも全然チェックしていません。
ネットも不安定やし。
実際に、Facebookで友人達のお花見写真を見て、そういえば桜の季節やった!と軽い衝撃が最近ありました。
というわけで日曜日は、日本人と約束がなければ(トンガ人を日曜に誘うのは憚られるので)一言も発せず午後を過ごし、持ち帰ったウムを夕食に食べ、特に何も思考することなくネットや本を見て時間をつぶし、心身ともにぼけっとしたまま就寝します。
例えば日本で日曜に私がデートできるってことは、デート先の飲食店やら映画館やらの人は、デートできずに働いてるってことですよね。
日本の場合、サービス業は日曜こそ稼ぎ時ですが、トンガのように、全員でいっしょに休むというのもいいかなともちょっと思いました。